ネオニコチノイドの効果と残留農薬の問題について

農業の歴史は農薬の開発の歴史でもあります。作物の効率的な栽培に欠かせない農薬ですが、その一方で人体への悪影響が問題視されている事実も否定できません。農薬の製造や使用には厳しい制限が設けられていますが、それでも健康被害に見舞われる可能性があるので慎重な扱いが求められます。

安全な作物を食べるためにも、農業と農薬の関係や問題点について学びましょう。

農業の発展と農薬の需要の増加について

農業の現場において、雑草と害虫は作物の成長を妨げる重大な問題です。雑草は土壌の栄養を横取りし、害虫は作物を食い荒らします。栄養不足と食害によって作物は弱ってしまい、病気に感染して品質が大幅に低下してしまうのです。

そのため、雑草や害虫をどのように排除するかが大きな課題と言えます。当初は作物を雑草や害虫に負けない、強い品種にするための改良が進められました。作物が早く成長すれば雑草や害虫に負けないほど大きくなり、収穫量も増えるためです。

また、作物を強くするだけではなく、雑草や害虫の発生を未然に防ぐ方法も模索されてきましたが、大きな効果を得るには農薬が開発されるまで待つ必要がありました。

農薬の歴史は非常に古く、有毒な植物の葉や種を燃やしたり、水に浸して畑に散布する行為が世界各地で行われていました。しかし、その効果は決して良いものではなく、むしろ有毒な成分が作物に付着して食中毒を引き起こすケースが多かったのです。

現在のイメージに近い農薬が開発されたのは19世紀後半とされ、当時は硫黄や石灰、硫酸銅などを溶かした液体を散布していました。当時の農薬は殺虫剤としての意味合いが強く、雑草については手作業で抜き取るのが普通でした。

しかし、作物を食い荒らす害虫の駆除を効率的に行うことができる農薬は作物の収穫量を増大できる理想の薬剤として爆発的に普及しました。20世紀に入ると化学薬品を主原料にした農薬が作られるようになり、製造コストの低さと高い殺虫効果から更に普及していったのです。

農薬による健康被害の表面化と新しい農薬の開発

殺虫効果が高い農薬が広く普及した理由として、農作業の大幅な簡略化が挙げられます。農薬が作られる以前の農業の現場では、害虫駆除は手作業で行うのが常識でした。広大な畑の中で何十人もの作業員が害虫を一匹ずつ捕まえる光景が当たり前だったのです。

ですが、非常に手間がかかる上に決して優れた効果とは言えず、何度も作業を繰り返してそれでも害虫による食害に見舞われることもよくある話でした。そのような状況において、散布するだけで害虫を根こそぎ駆除できる農薬はまさに夢の薬剤でした。

大勢の人手を使って何時間も作業を行う必要が無く、食害を未然に防ぐことができる農薬は多くの農家が求めていたものだったのです。また、農薬が作られた当時は薬剤が人体にどのような影響をもたらすのかという点がほとんど考慮されなかったのも事実です。

殺虫剤の成分が体調不良を引き起こす程度の事実は知られていましたが、農薬として用いる際は空気中に飛散したり、時間の経過で自然に分解されると信じられていたからです。農薬の扱いに関する法的な規制も無かったため、害虫駆除の名目で過剰に農薬を散布する農家が増加しました。

その結果、作物に農薬の成分が付着したまま市場で販売され、消費者が体調不調に陥るトラブルが続々と発生したのです。後に残留農薬問題と称されるトラブルが多発したことにより、農薬に関する規制が作られました。また、人体への影響が少ない農薬の開発も求められ、その結果として様々な薬剤が新しい農薬として普及するに至ります。

殺虫効果が高いネオニコチノイドも、旧来の農薬に代わる新しい薬剤として開発された物のひとつでした。

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ネオニコチノイドの特徴と環境への影響

ネオニコチノイドは殺虫剤の一種であり、農薬として世界中で使用されています。強い神経毒性がありますが、その効果は人間を含む脊椎動物よりも昆虫に対して効果的に作用するのが特徴です。そのため、人体への悪影響が少ない安全な農薬として広く普及しました。

また、ネオニコチノイドは水溶性であり、植物の根に吸収されて茎や葉に浸透する性質があります。

栽培中の作物がネオニコチノイドを取り込む形になるので、作物そのものに虫除けの作用を持たせることができます。この作用によって農薬の散布回数を減らすことが可能になり、畑の管理をより簡略化することができるようになりました。

ネオニコチノイドの普及によって農業の効率化が更に向上したと言えるのです。しかし、ネオニコチノイドの普及と共に新たな問題が浮上した事実は無視できません。問題視されたのはネオニコチノイドの普及に伴って世界各地で発生したミツバチの大量死です。

ネオニコチノイドの殺虫効果は様々な虫に作用するため、当初は散布された薬剤に触れたのが原因とされていました。しかし、後の研究によってネオニコチノイドの植物への浸透性がミツバチの大量死に繋がったことが判明したのです。

殺虫効果は植物のすべての器官に及び、花粉や蜜も例外ではありません。ミツバチはネオニコチノイドに汚染された花粉や蜜に触れたために死んでしまいました。ミツバチの大量死はいわば昆虫版の残留農薬被害とも言えるトラブルです。

養蜂が盛んな地域ではネオニコチノイドの使用が厳しく制限され、特にフランスでは一切の使用が禁止されています。

日本におけるネオニコチノイドの扱いについて

日本ではネオニコチノイドの使用に関する具体的な規制は設けられていません。これは作物の収穫量を安定させるには効率的に害虫を駆除できるネオニコチノイドが最適と判断されているためです。一部の農家では使用する量を減らすなど自主的に制限を設けていますが、養蜂が他の国のように盛んに行われていないこともあり、ミツバチの大量死が発生してもさほど問題視されていないのが実状です。

残留農薬による健康被害と対処法について

ネオニコチノイドは人間など脊椎動物への影響が少ないとされていますが、臨床例が少ないこともあって絶対に安全とは断言できないのも事実です。また、残留農薬による健康被害を不安視する意見が多いこともあり、現在ではネオニコチノイドをはじめとする農薬を使わずに栽培する農家が増えています。

残留農薬の危険性を除去するには、作物を食器用の洗剤で洗うのが効果的とされています。農薬の多くは洗剤に含まれている界面活性剤に反応して作物から剥離します。そのため、単に水をかけるよりも効率的に農薬を洗い流すことが可能です。

しかし、洗剤に含まれる香料が作物に付着して特有の臭気を発生させることがあるため、十分にすすぎを行うようにしましょう。